建設業において、契約の遅延損害金は重要な要素の一つです。特に、法定利率の変動や、契約で定める遅延損害金の上限について正しく理解しておくことが重要です。 本記事では、遅延損害金の適用基準や法定利率の改正による影響、実務で注意すべきポイントを詳しく解説します。未払いのリスクを最小限に抑え、適正な契約を結ぶための知識を身につけましょう。いつから「工期遅れ」となるのか?「工期遅れ」とは、具体的にどの時点からを指すのでしょうか。住宅建築における工期の考え方を詳しく解説します。工期とは工期とは、建築工事の開始から完成までの期間を指します。住宅を建てる際には、施主と施工業者が打ち合わせを行い、建物の引き渡しまでのスケジュールを決定します。この合意をもとに、工期が正式に決まる仕組みです。建築工事請負契約書には、工期について以下のような形で明記されます。工程記載内容の例着工日契約締結後〇日以内 / 許可取得後〇日以内 / 〇年〇月〇日完成日着工日から〇日以内 / 〇年〇月〇日引き渡し日〇年〇月〇日また、契約を結んだ後、施工業者は施主に対して詳細な工程表を提示します。この工程表を見ることで、具体的な工期や進捗状況を把握できます。「工期遅れ」とは引き渡し日の遅延住宅の建築工事では、悪天候や人手不足、資材の供給遅れなどが原因で、予定通りに進まないことがあります。こうした影響によって、契約時に定めた引き渡し日を超えてしまう状態を「工期遅れ」といいます。工期の遅延が発生しているかどうかを確認するには、契約書に記載された引き渡し日をチェックすることが大切です。工期遅れの責任は誰にあるのか?建築工事のスケジュールが遅れた場合、必ずしも施工業者が責任を負うとは限りません。工期遅れの原因によっては、施工業者に責任を問えないケースもあるため、状況を正しく判断することが重要です。施工業者に責任がある場合施工業者は契約で決められた引き渡し日までに建物を完成させる義務があります。施工業者側の都合で工事が遅れた場合は、契約違反(債務不履行)とみなされ、責任を負うことになります。施工業者の責任となる代表的な事例は以下のとおりです。職人の確保ができなかった工期を決める際には、職人のスケジュール調整を適切に行う必要があります。人手不足が事前に予測できる状況にもかかわらず、それを考慮せずに工期を設定した結果、工事が遅れた場合は、施工業者の責任となります。施工ミスや工事のやり直し予定通りに工事を進めていたとしても、施工ミスや建物の不具合が発生すると、修正作業が必要になります。施工業者の過失によるミスで工期が延びた場合は、その責任を施工業者が負うべきです。施主に責任がある場合工事の遅れが発生しても、その原因が施主側にある場合は、施工業者に責任を追及することはできません。以下のようなケースでは、施主が工期遅れの責任を負うことになります。工事内容の変更・追加工事 契約締結後に、施主が設計の変更や追加工事を希望した場合、工期が延びることがあります。設計変更や追加工事には、建築確認の取り直しや追加資材の手配などが必要になるため、通常よりも時間がかかります。このようなケースでは、施工業者に責任を問うことはできません。請負代金の支払い遅延 契約時、着工時、工事の中間時、引き渡し時など、建築工事では複数のタイミングで請負代金の支払いが発生します。施工業者は施主からの入金を確認したうえで工事を進めるため、支払いが遅れると、その分だけ工事も遅れてしまいます。この場合の工期遅れは施主の責任となります。誰にも責任を問えない場合施工業者・施主のどちらにも落ち度がない場合でも、予期せぬ事情で工事が遅れることがあります。このようなケースでは、工期遅れの責任を施工業者に追及することはできません。天候による影響 建築工事には、解体・基礎・外装など、天候の影響を受ける作業が多く含まれます。台風や長雨などの悪天候が続くと、工事が計画通りに進まず、工期が延びる可能性があります。このような不可抗力による遅延は、施工業者の責任とはなりません。資材の供給不足 世界的な資材不足の影響で、近年「ウッドショック」と呼ばれる木材不足の問題が発生しています。このように、建築資材の調達が困難な場合、施工業者や施主に責任があるとは言えません。遅延損害金とは? 支払いの遅れによって発生するペナルティ「利息」「遅延利息」「遅延損害金」は、どれも金銭の支払いに関連するものですが、それぞれの意味は異なります。特に遅延損害金は、支払い期限を過ぎた場合に発生する損害賠償の一種です。ローンや取引代金の未払いなどで問題となるため、その仕組みを正しく理解しておくことが重要です。利息・遅延利息・遅延損害金の違い金銭の貸し借りを例に、それぞれの概念を整理します。利息:お金を借りた際、元本に対して一定の割合で発生する対価。約定利息:契約に基づき、期限内に支払いが行われている場合に発生する利息。遅延損害金(遅延利息):支払期限を過ぎた際に発生する損害金。未払いによるリスクを考慮し、通常の利息より高い割合が設定されることが多い。遅延損害金が発生する条件遅延損害金は、支払いの遅延が発生した場合にのみ適用されるものです。契約通りに支払いが行われている場合は、通常の約定利息のみが発生し、遅延損害金は発生しません。また、約定利息と遅延損害金は同時に適用されず、支払い遅延が発生した時点で通常の利息は停止し、遅延損害金に切り替わります。遅延損害金が問題となる場面商取引では、大きく分けて以下の2つの側面があります。商品やサービスの提供(A)代金の支払い(B)このうち、遅延損害金が発生するのは「B:支払い義務違反」のケースです。例えば、契約で定められた期限までに請求額を支払わなかった場合、未払い分に対して遅延損害金が課されることになります。こうしたリスクを回避するためには、契約内容をしっかりと確認し、支払期限を厳守することが大切です。遅延損害金の決まり方遅延損害金の利率は、契約で取り決めがある場合はその内容に従い(=約定利率)、取り決めがなければ法律で定められた利率(=法定利率)が適用されるというルールがあります。これは利息と同じ考え方です。遅延損害金に関する法律のルール民法第419条では、金銭の支払いが遅れた場合の損害賠償について、以下のように定めています。支払いが遅れた場合、遅滞が発生した時点の法定利率で損害額が決まる契約で定めた利率(約定利率)が法定利率を上回る場合は、約定利率が優先される遅延損害金は、債権者が損害を証明しなくても請求できる債務者は、不可抗力による遅延を理由に責任を免れることができない遅延損害金の重要なポイント法律の条文は分かりにくいですが、重要なのは「契約で利率を決めていれば、その条件が適用される」「損害の立証が不要なので、請求がスムーズにできる」という点です。つまり、契約であらかじめ遅延損害金の利率を定めておけば、それに基づいて請求が可能です。仮に合意がなくても、法定利率に沿って請求できるため、支払い遅延が発生した場合の対応が明確になっています。遅延損害金の合意がない場合の利率契約で遅延損害金の利率を取り決めていない場合、法定利率が適用されます。近年の民法改正により、法定利率には大きな変更が加えられました。法定利率の引き下げ(民法改正)従来の法定利率は年5%でしたが、市場の金利と大きく乖離していたため、2020年4月1日の民法改正により年3%に引き下げられました。変動制の導入(民法改正)改正前は法定利率が固定されていましたが、市場の金利変動に対応するため、3年ごとに見直しを行う制度が導入されました。これにより、将来的に法定利率が変更される可能性があります。例えば、改正法の施行から3年後の2023年4月1日以降は、3%のまま維持されるか、または変更される可能性があります。商事法定利率の廃止(商法改正)以前は、商取引に適用される商事法定利率(年6%)がありましたが、今回の改正で廃止されました。これにより、商取引による支払い遅延も、民法の法定利率が適用されることになります。適用される法定利率のまとめ遅延損害金の法定利率は、契約日ではなく、実際に支払いが遅れたタイミングの利率が適用されます。以下の表にまとめました。支払い遅延の発生時期適用される法定利率2020年3月31日まで年5%(商取引は6%)2020年4月1日~2023年3月31日年3%2023年4月1日以降変動の可能性あり今後は、市場の金利動向によって法定利率が変わるため、遅延が発生した時点の利率を確認することが重要です。遅延損害金の合意がある場合当事者間で遅延損害金の利率について合意がある場合、その取り決めに従って請求が可能です。ただし、口頭で合意するケースは少なく、後々争いになった際に証拠として示すことが難しいため、契約書や規約に明記するのが一般的です。遅延損害金の利率を契約に定める意義契約書や利用規約に遅延損害金の利率を記載しておけば、支払い遅延が発生した際に、法的根拠をもって請求することができます。ただし、利息制限法により、法定上限を超える利率を設定することは認められていません。契約で定める際には、法律の範囲内で適正な利率を設定する必要があります。契約に基づいた適正な対応を遅延損害金のルールを事前に明確にしておくことで、支払い遅延が発生した際の対応がスムーズになります。トラブルを避けるためにも、契約の段階でしっかりと条項を定め、適切な利率を設定することが重要です。【14.6%】とは?実務上、遅延損害金の利率として「14.6%」が設定されることが多いですが、その根拠にはいくつかの理由があります。14.6%がよく使われる理由国税の延滞利率に準じている 税金の延滞に対して国税通則法で定められている利率が*年14.6%*であることから、多くの契約書でもこの数値を基準に設定していると考えられます。日歩計算に由来 かつての金融計算では、「日歩4銭」が使われていました。これは100円あたり1日4銭(0.04円)の利息が発生するという計算方法で、年利に換算すると14.6%になります。この慣習が現在の契約にも影響を与えているといわれています。法律上の上限としての14.6%消費者契約法では、消費者が支払う遅延損害金の上限を「14.6%」と定めています。立法担当者によれば、多くの契約書でこの利率(または14.5%)が用いられており、民事契約における一般的な基準として定着しているため、この数値が上限として採用されたと説明されています。工期遅れが発生した場合に請求できること施工業者の責任によって工期が遅れた場合、施主は損害賠償の請求や契約解除を検討することが可能です。具体的な対応策として、以下の2つが挙げられます。損害賠償の請求工期遅れの原因が施工業者にある場合、債務不履行を理由に損害賠償や遅延損害金を求めることができます。例えば、工期の遅延によって施主に以下のような損害が生じる可能性があります。仮住まいの家賃負担(入居予定日が遅れた場合)賃貸物件の家賃収入の損失(賃借人の入居開始が遅れた場合)損害賠償を請求するためには、実際に発生した損害の内容や金額を証明する必要があります。ただし、建築請負契約において違約金の条項が設けられている場合、その範囲内で請求が可能となり、損害の詳細な立証は不要です。 ただし、契約で定められた損害賠償額の上限を超える金額については、たとえ損害が発生していたとしても、追加請求はできません。契約の解除工期の大幅な遅延により、施工業者との契約を継続することが困難な場合、請負契約を解除する選択肢もあります。しかし、施工業者の債務不履行を理由に契約を解除する場合でも、すでに完成している工事部分に対しては、施主が受けた利益の割合に応じた報酬を施工業者に支払う義務が発生します(民法第634条第2項)。また、契約を途中で解除すると、以下のようなリスクが考えられます。別の施工業者を見つけるのが難しくなる引き継ぎ工事の費用が当初の見積もりより高額になる可能性があるこのような点を踏まえ、契約解除は最後の手段とし、慎重に判断することが重要です。未払いの工事代金を回収する方法工事代金の未払いは、どれだけ契約内容に注意していても発生する可能性があります。 万が一、支払いを受けられない事態になった場合、他の債権者に先を越される前に、迅速に回収の手続きを進めることが重要です。工事代金の回収手順未払いが発生した際には、以下の手順で対応するのが一般的です。未払いの理由を確認するまず、元請けが支払いを行わない理由を把握します。未払いの原因によって、取るべき対応が変わるため、状況を正確に把握することが重要です。交渉による督促・催告を行う支払いが滞っている理由が判明したら、当事者間での交渉を試みます。場合によっては、支払条件の変更や分割払いの提案を行い、円満な解決を図ることも選択肢の一つです。弁護士名義の請求書を送付する交渉で解決しない場合は、弁護士名義で工事代金を請求する書面を作成し、内容証明郵便で送付します。この書面には、支払期限や振込先のほか、支払いがなければ法的措置を講じる可能性があることを記載し、相手に対応を促します。法的措置をとる弁護士名義で請求しても支払いが行われない場合は、法的手続きを検討します。法的措置の進め方未払いの状況によって適切な対応は異なるため、弁護士と相談し、最適な手段を選択することが重要です。支払督促裁判所を通じて、債務者(元請け)に支払いを求める手続きです。異議がなければ、1~2か月程度で強制執行が可能になります。訴訟裁判を起こし、未払いの工事代金の支払いを求めます。判決で勝訴すれば、法的に回収することが可能です。 ただし、訴訟中に和解が成立すれば、判決を待たずに早期解決を図ることができます。仮差押え訴訟中に元請けの資金繰りが悪化すると、勝訴しても回収できなくなるリスクがあります。 そのため、訴訟を起こす前に仮差押えを行い、元請けの財産を保全することが重要です。仮差押えの対象には、不動産・銀行預金・工事代金債権などが考えられます。強制執行債務名義(確定判決、仮執行宣言付き支払督促、和解調書など)がある場合、強制執行を行うことで、未払いの工事代金を回収することができます。工事代金の未払いが発生した際は、できるだけ早く対応を開始することが大切です。 交渉で解決できない場合は、法的措置を視野に入れ、迅速に回収手続きを進めましょう。未払いの工事代金を回収する際に押さえておくべきポイント工事代金の未払いが発生した場合、単に請求するだけでなく、法的なルールや注意点を理解した上で適切に対応することが重要です。特定建設業者の立て替え払い制度工事代金の未払いにより、工事に従事する労働者への賃金支払いが困難になった場合、元請け業者が「特定建設業者」に該当するかどうかを確認することがポイントです。建設業法第41条第2項では、特定建設業者であれば、賃金の立て替え払いを受けられる場合があると規定されています。特定建設業者とは? 建設業法第15条に基づき、一定の基準を満たした建設業者のことを指します。適用範囲 特定建設業者は、1次下請け業者だけでなく、2次・3次下請け業者に対しても支払いを保証する義務があります。たとえば、自社が2次下請けの場合、元請けが特定建設業者であれば、立て替え払いを受けられる可能性があります。工事代金請求には時効がある未払いの工事代金を請求する場合、時効の適用に注意が必要です。時効期間のルール工事代金の請求権は、以下の期間で消滅します。権利を行使できる時点から10年請求できることを知った時点から5年通常、建物の引き渡しを行った時点で請求が可能となるため、実際の時効期間は「5年」と考えるのが一般的です。遅延損害金の請求が可能契約で定めた支払期限を過ぎた場合、遅延損害金を請求することができます。適用される利率契約で特に取り決めがない場合、民法第404条第2項により「年3%」が適用されます。契約において別の利率が定められている場合は、その利率に基づき請求が可能です。契約書がない場合の対応たとえ契約書がなくても、工事請負契約は口頭の合意でも成立するため、建物を完成させて引き渡していれば工事代金を請求することが可能です。しかし、契約書がない場合、トラブルが発生すると請求が難しくなる可能性があります。 そのため、以下のような契約の存在を示す書類を用意しておくことが重要です。仕様書設計図見積書請求書これらの資料を適切に保管しておくことで、万が一のトラブル時にも工事代金を確実に回収できる可能性が高まります。工期遅れが発生したら弁護士への相談を検討施工業者の責任によって工期が遅れた場合、適切な対応をとるために弁護士へ相談することをおすすめします。 施工業者との交渉や法的手続きを進める際にも、専門的なサポートを受けることで、スムーズな解決が期待できます。建築トラブルは専門知識が必要で個人対応が難しい工期遅れの責任を問うためには、建築契約や法律に関する知識が求められるため、施主が単独で対応するのは難しいケースが多いです。施工業者は専門知識を持っているため、「これは不可抗力による遅延だから責任はない」などと主張し、施主が不利な立場に追い込まれる可能性があります。 そのため、施工業者の責任を明確にするためにも、まずは弁護士に相談し、法的にどのような請求が可能かを確認することが重要です。弁護士が施工業者との交渉や裁判をサポート工期遅れが施工業者の責任によるものである場合、弁護士が施主に代わって施工業者との交渉を行い、損害賠償の請求などを進めます。弁護士が対応することで、個人で交渉するよりも有利な条件で解決できる可能性が高まる施工業者が交渉に応じない場合は、裁判などの法的手続きを検討することも可能話し合いで合意に至らない場合でも、弁護士が裁判を含めた最終的な解決までサポートするため、安心して手続きを進めることができます。まとめ建設業における遅延損害金は、契約内容や法定利率の改正により変動するため、事前に適切な知識を持つことが重要です。契約時に遅延損害金の利率を明記し、支払い遅延が発生した際に適切な対応ができるよう準備しておくことで、未払いリスクを抑え、スムーズな取引を実現できます。