建設業における下請契約では、元請業者と下請業者の間で契約内容を明確にし、法令違反を防ぐことが重要です。特に、2020年の建設業法改正では、検査期間の設定や労務費の支払い方法に関するルールが強化されました。本記事では、請負契約書の適用範囲や注意すべきリスクを解説し、適正な契約のポイントを詳しくご紹介します。建設工事請負契約とは?建設工事請負契約は、施工業者が工事の完成を義務づけられ、依頼者がその成果に対して報酬を支払う契約のことです。 この契約は、民法第632条に基づく「請負契約」に分類されます。そのため、基本的な契約内容は民法の請負契約に関する規定が適用される仕組みになっています。建設工事の下請契約とは?建設工事の下請契約は、元請業者が受注した工事の一部を、別の事業者に発注する契約です。 この契約も建設工事請負契約の一種であるため、建設業法の適用を受けます。また、下請契約に関しては建設業法による規制が存在します。これは、元請業者の影響力が強くなりやすい業界特性を踏まえ、不当な取引条件を防ぐために設けられました。過去には、下請業者が不利な条件を押し付けられる事例が多く見られたため、公正な取引を確保する目的で、法律によって具体的なルールが定められています。建設業法に基づく下請契約のルールとは?建設工事の下請契約には、元請業者と下請業者の取引を公正に保つための法律上の規制が存在します。 これらのルールは、建設業法に基づき設定されており、契約の透明性や適正な条件を確保する目的で設けられています。詳細は、国土交通省が発行する「建設業法令遵守ガイドライン」を参考にするとよいでしょう。下請契約の見積条件とは?元請業者は、下請契約を結ぶ前に、下請業者に対して具体的な見積条件を提示しなければなりません(建設業法第20条第3項)。この条件には、契約を適正に進めるための重要な項目が含まれます。見積時に示すべき主要事項施工範囲と工事内容(作業の詳細や設計図面を含む)工事の開始時期・完了時期の明確化請負代金の支払条件(前払い・出来高払いの方法やタイミング)設計変更や工期の調整に関する対応策(費用負担の基準や補償内容)自然災害などによるスケジュール変更時の対応材料費や機材貸与の負担割合の明記第三者への損害が発生した場合の責任区分検査・引き渡しの基準や時期の設定品質不良時の保証制度や補償方法の規定遅延発生時のペナルティや違約金の条件契約内容に関する紛争が生じた際の解決策作業を行わない日・時間帯の指定(最新の法改正により追加)工事内容の詳細提示が必要な理由特に、工事内容に関しては、契約時点で明確に記載しなければなりません。具体的には、以下の情報を盛り込む必要があります。工事名と施工場所の特定施工範囲と責任区分の明示全体工程と下請工事のスケジュール調整他の工事業者との関係や調整事項施工時の制約条件(騒音・振動など)資材の提供・処分に関する費用負担の取り決めこれらの情報を事前に明確化することで、下請業者とのトラブルを未然に防ぎ、スムーズな工事の進行につなげることができます。下請契約の見積期間と契約締結のルール建設業法では、元請業者が下請業者に対し適切な見積期間を確保し、契約を公正に締結することが求められています。 これにより、下請業者が適切な条件で契約を結び、工事を進められるようにすることが目的です。見積期間の最低基準元請業者は、下請業者が見積を行うために最低限の期間を設ける義務があります(建設業法第20条第3項)。期間は工事の予定価格によって異なります。工事の予定価格必要な見積期間短縮可能な期間(特別な事情がある場合)500万円未満1日以上短縮不可500万円以上5000万円未満10日以上5日以内の短縮が可能5000万円以上15日以上5日以内の短縮が可能これはあくまで法律で定められた最低限の期間であり、元請業者は下請業者が十分な見積を行えるよう、必要に応じて余裕を持たせることが推奨されます。建設業法に基づく契約締結の義務下請契約は必ず書面で交わすことが義務付けられています(建設業法第19条)。 書面を通じて契約内容を明確にし、双方の合意を記録することで、トラブルの防止につながります。2020年9月までは、契約に記載すべき項目として14項目が定められていましたが、2020年10月の法改正により、「工期を施工しない日・時間帯」の項目が追加され、15項目になりました。契約書に記載が求められる事項(2020年10月以降)工事の詳細(どのような工事を行うか)請負代金の総額(工事費用の明示)工事開始・完了時期(具体的なスケジュールを記載)支払条件(前払い・出来高払いなどの方法)設計変更や工事中止時の対応(費用負担や補償のルール)天災などの不可抗力に関する取り決め(工期延長・損害負担など)価格変動時の請負代金・工事内容の調整施工中の第三者損害発生時の責任範囲資材や建設機械の提供・貸与に関する取り決め工事完成後の検査・引渡しのルール請負代金の最終支払のタイミングと方法品質不適合時の保証・補償内容遅延や契約違反が発生した場合のペナルティ紛争が生じた際の解決方法工事を行わない日・時間帯の規定(2020年改正により追加)これらの契約内容を明確にすることで、元請業者・下請業者双方が合意のもとで取引を行い、円滑な工事の遂行が可能になります。建設業法における下請契約の取り扱い下請契約は口頭でも成立しますが、建設業法では契約の明確化とトラブル防止のため、書面による契約締結を義務付けています(建設業法第19条)。また、注文者から求められた場合、元請業者は見積書を交付する義務があります(建設業法第20条第2項)。 その際、見積書には建設業法第19条第1項で定められた請負代金額を除くすべての事項を記載しなければなりません。さらに、下請契約に関しては、以下の規制が設けられています。規制内容根拠となる法律元請業者は、通知を受けてから20日以内に工事の検査を完了しなければならない建設業法第24条の4第1項工事の引渡しは速やかに行う必要がある建設業法第24条の4第2項下請業者に対し、不利益な取り扱いを禁止建設業法第24条の5下請代金はできる限り早く支払うこと建設業法第24条の6第1項・第2項割引が困難な手形の交付は禁止建設業法第24条の6第3項なお、2020年10月に建設業法が改正されており、契約書のフォーマットが古い場合、最新の法規に適合しているか確認が必要です。請負契約の主な締結方式請負契約の締結方法には、以下の3種類があります。「建設工事請負基本契約(または基本約款)」+「注文書」+「請書」による方式基本契約で取引全体のルールを定め、注文書と請書で個別工事の条件を明確にする方法。継続的な取引を行う事業者に適している。「建設工事請負契約書」のみで締結する方式すべての契約条件を単一の契約書に記載し、個別契約を不要とする方式。一回限りの工事発注など、継続的な取引を前提としない場合に適している。「注文書+請書」のみで締結する方式注文書に必要事項を記載し、請書で契約を成立させる方法。書類上の契約書がなくても法的要件を満たせば有効だが、国土交通省は1つ目、または2つ目の方式を推奨しており、実務上は避けるべきとされる。契約に関するトラブルを未然に防ぐためにも、可能な限り1つ目または2つ目の方法で契約を締結することが望ましいとされています。2020年10月施行の建設業法改正に伴う下請契約の確認ポイント2020年10月1日以降、建設工事の下請契約を締結する際には、改正建設業法に対応した契約内容になっているかを確認する必要があります。 特に、下請代金のうち労務費に相当する部分の支払い方法について、適切に取り決めることが求められます。下請代金のうち、労務相当分が現金払いとなっているか?改正のポイント改正建設業法第24条の3では、元請業者は下請代金のうち労務費に相当する部分について、現金で支払うよう配慮しなければならないと規定されています。 ただし、この義務はあくまで「配慮義務」にとどまり、必ずしも現金で支払わなければならないわけではありません。元請業者が契約を確認する際のポイント元請業者としては、改正建設業法第24条の3に基づき、可能な限り労務費を現金で支払うことが推奨されます。 そのため、契約書には「労務費に相当する請負代金は現金で支払う」と明記することが望ましいといえます。なお、現金払いとは必ずしも手渡しを指すものではなく、銀行振込や銀行振出小切手による支払いも認められます。下請業者が契約を確認する際のポイント下請業者としても、労務費に相当する部分について確実に支払いを受けるため、契約書内に「労務費に相当する請負代金は現金で支払う」旨を記載するよう求めることが重要です。契約書の記載例(工事内容) 発注者と受注者は、工事請負契約約款、設計図書等に基づき、以下の条件で工事請負契約を締結する。工事名: ●●●●工事場所: ●●●●請負代金額: 金●●円(うち、消費税及び地方消費税●●円)請負代金の支払方法:前払: 契約成立時に、金●●円部分払: 金●●円、支払請求締切日●●年●●月●●日完成引渡し時: 金●●円労務費に相当する請負代金は現金で支払うものとする。工期:着手: ●●年●●月●●日完成: ●●年●●月●●日引渡し: ●●年●●月●●日契約締結時にこの内容を確認することで、改正建設業法に適合し、適正な契約の履行が可能となります。まとめ建設業の下請契約では、契約内容を明確にし、法令違反やトラブルを回避することが求められます。2020年の建設業法改正により、検査期間の設定や労務費の支払い方法に関する規定が強化され、適正な契約管理がより重要となりました。この記事を参考にして、適切な下請法を締結するようにしましょう。